オリジナル古生物復元画 『二種の直牙型の巨大ゾウ & 古代の毛皮サイ』
『更新世間氷期・ユーラシア東部 & 西部 メルクサイと二大直牙型巨大ゾウ(ステゴドン & パレオロクソドン)』
本イラストでは、更新世中期に汎ユーラシア規模で分布していた「メルクサイ」を中心に据えて、その東方と西方における複数のコンテンポラリー種を、一度にフィーチャーする形をとっています。
ユーラシアの広範囲に亘って分布していたメルクサイは、大陸西方では間氷期を特徴づける「Palaeoloxodon-Equus 動物相」に典型的にみられる動物の一種であり、同じくアジアでは「Ailuropoda-Stegodon 動物相」に典型的にみられる一種でした。
今回登場する長鼻類(ゾウの仲間)は、更新世のユーラシア大陸を西と東に二分してそれぞれの勢力圏を誇っていた直牙型(straight tusked)のゾウ、パレオロクソドンとステゴドンです。
両属の最大種(ストレートタスクゾウ Palaeoloxodon antiquus と、コウガゾウ/ミエゾウ Stegodon zdanskyi)を描きました。
鮮新世から更新世にかけて、日本にはナウマンゾウ(Palaeoloxodon naumanni)、コウガゾウと同種とみられる大型のミエゾウ(Stegodon miensis)、ミエゾウから派生したアケボノゾウ(Stegodon aurorae)などが生息していましたから、パレオロクソドン属とステゴドン属は日本人にとって馴染み深い化石長鼻類だといえます。
ストレートタスクゾウとコウガゾウともに、肩高4m前後、推定体重10トンを超す大きさに加えて、ゾウ科の種類であること(ただし、ステゴドン属を別系統とし、ステゴドン科として分類する妥当性を説く研究者もいます)、主に間氷期に森林生態に適応し繁栄していたブラウザー、ないしmixed feederであったことなど共通点も多いですが、(ご覧の通り)形態上の違いも目につきます。
●Species●
〈ユーラシア東方(右側)〉
手前から
ジャイアントバク Tapirus (Megatapirus) augustus
更新世に中国南部から東南アジアにかけて分布していた、バク科の史上最大種。サイズの見積もりには幅があるが、体重500kg近くに達したと考えられている。
ステゴドン属種(ミエゾウ)Stegodon zdanskyi / Stegodon miensis
カモシカ Capricornis sp.
〈ユーラシア西方(左側)〉
手前から
エトラスカサイ Stephanorhinus etruscus
ステファノリヌス属の基底種の一つと考えられている。現生スマトラサイとほぼ同等の大きさで食性も同じくブラウザーであるが、より細長い四肢に特徴づけられている。
パレオロクソドン属種(ストレートタスクゾウ) Palaeoloxodon antiquus
ブロードフロント・ムース Cervalces latifrons
オオツノジカやスタッグムースを凌ぐ史上最大のシカ
〈トランスユーラシア(中央)〉
メルクサイ Stephanorhinus kirchbergensis
A2サイズのイラストボード モノクローム作品
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商品ストーリー
Super Proboscideans Head to Head : Rematch!
Elephas atavus vs. Deinotherium bozasi
Revised
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鮮新世の同時期にアフリカ東部で分布域が重複していた二種の巨大長鼻類、エレファス・アタヴス Elephas atavus(復元画向かって左側の巨象。以下、便宜上、レッキゾウと表記。この耳慣れない学名については後述)とデイノテリウム・ボザーシ Deinotherium bozasi(同右側。以下、アフリカデイノテリウムと表記)の遭遇の場面を捉えた復元画になります。かつて『プレヒストリック・サファリ⑧』で発表した旧作は形態描写、正確さとも十全というにはほど遠く不満を感じていたため、今作では同じ構図のもと、二種の形態の全面的修正、描き直しを敢行しました。
既にレッキゾウとデイノテリウムについて別個に紹介する形で記事を発表しておりましたが、今回、一部内容を補足したうえ、二つの記事をまとめてアップし直しました。
レッキゾウは鮮新世になって登場した比較的新しいゾウ科の動物で、アジアゾウと同属(エレファス)に分類される場合とパレオロクソドン属に分類される場合があることは、読者の皆さんは承知されていると思います。複雑に入り組み容易に把捉し難いその分類の変遷について、下記『巨大レッキゾウの復元画と、パレオロクソドン分類についての考察』の項で考察しておりますが、執筆当時から数年を経て、記述内容の一部補足する必要が生じています。
〈Elephas atavusとは、なんぞや〉
鮮新世クービ・フォーラの巨大標本(当復元画)を、パレオロクソドン属ではなくElephas recki の亜種 Elephas recki atavusに同定すべき妥当性について、下記本文で詳述しましたが、後続の研究を経て、本種の分類は固有種(Elephas atavus)として措定されるに至ったようです(pers. comm., Zhang, 2022)。これは、本文でも紹介したHanwen Zhang博士(ブリストル大学・古脊椎動物学)が、私信を通じ私に教えてくださった情報であり、先端の分類仮説とみてよいと思います。
鮮新世クービ・フォーラ標本は、大抵の通俗的文献においてPalaeoloxodon recki、ないしElephas recki として紹介されてきましたが、その分類を見直すべき(刷新すべき)段階に至っていることは、確かなのでしょう。そうすると、Elephas atavusを指して、レッキゾウなどという通称も適切とは言い難くなりますが、本文では便宜上(つまり、Elephas atavusに俗称が存在しないため)、レッキゾウ表記を継続することにします。
ここで大いに注意すべきは、Palaeoloxodon recki 分類が無効化してしまう、ということではないのです。Zhang博士が下記動画のプレゼンで論じられているように、~1.04Ma、エチオピア北部分布の個体群はPalaeoloxodon recki分類が(おそらく)維持されるのであり、より古い二つのタクソン(そのうちの一つに、2.0~1.88Ma、ケニヤ東タルカナの個体群、つまりクービ・フォーラの巨大標本が該当します)が、系統を異にするアジアゾウ属(Elephas)に同定された、ということにすぎません。
ですから、これらElephas種から'recki'の種名が外されて、「Elephas atavus」(2.0~1.88Ma、ケニヤ東タルカナ)、「Elephas brumpti」(3.5〜2.85Ma、エチオピア南西部)という「固有種」の扱いとなることは、むしろ当然の帰結だとも考えられるでしょう(brumpti種については厳密にはまだ不確定)。
私個人としては、エレファス・アタヴス種と、本文中でも触れている、後続のエレファス・ジョレンシス種(更新世後期)との系統上の関係性についても調べていきたいのですが、ジョレンシス種に関しては、Zhang博士からご意見を伺うことは叶いませんでした。
以下の記述内容は発表当時のままなので、今述べた補足点のみ、ご留意願います。
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デイノテリウム科・デイノテリウム属の起源は更に古く中新世中期以前にまで遡るものの、アフリカ大陸においては更新世まで存続しておりました。両者の化石骨格は鮮新世後期の地層から最も多く出土しており、その分布域も東、中央、南東アフリカの著名な化石発掘場を中心に、驚くほど重複しています。特にケニアのタルカナ湖周辺の鮮新世後期の地層からは、同時代種としてアウストラロ
ピテクス・ボイセイなどとともに、アフリカデイノテリウムと、レッキゾウの既知の5亜種のうちの一つ、 「イレレテンシス」の骨格が出ており(kaitio membersとして知られる化石群)、共存していた様子が窺い知れます。
レッキゾウは典型的に高い歯冠を具えていましたが、生息地の当時の植生からして、更新世のマンモス種ほど徹底した平原「グレイザー」であったとは考えにくいと思います。
対照的にデイノテリウムの歯は横堤歯、低冠歯で、歯面摩耗が少ない葉食を主にする「ブラウザー」であり、ひいては森林生態への適応が窺えるわけですが、そのポストクラニアル形態については注意が必要です。
先行するプロデイノテリウム属と比べて、四肢遠位部の伸長の程度など走行適応への度合いが高く(Athanassiou, 2004)、その巨大なサイズと照らし合わせて考えるに、デイノテリウム属種は必要な食量を得るために大規模な移動範囲をカバーしていたものと思われます。デイノテリウム属種の生息環境としては、完全に閉じた系の密林帯(forest)よりも、おそらく疎林や林地(open woodland)を考える方が妥当なのでしょう。
以上の考察と分布域の重なり具合から判断して、もちろん私の憶測の域を出ないといえばその通りですが、仮説として、この場面のようにグレイザーのレッキゾウとブラウザーのアフリカデイノテリウムとが同じ餌場で遭遇するようなことも、少なからずあったのではないかと考えます。
デイノテリウム属に代表されるデイノテリウム科の種類は、頭蓋-下顎骨形状の著しい特異性(前後に長く上下に短いフラットな頭骨、上顎の象牙を欠く代わりに体幹側に湾曲した下顎牙を具えるなど)は一目了然ながら、比較的短い胴や伸長した柱形状の四肢骨長などのプロポーションは、中新世以前に現れたいわゆる'archaic proboscideans'(古風長鼻類)の中にあって、例外的に現生ゾウ科種に似通っていたのです。
アフリカデイノテリウムは断片的ながら骨格が多数見つかっており、その形態、サイズ的にもユーラシア産の巨大種であるデイノテリウム・ギガンテウムとごく似通っていたと考えられています(ただし、ユーラシアの別の種類、Deinotherium proavum や Deinotherium thraceiensisとは明瞭な形態差異が報告されている)。
サイズも共通して特大級であり※、断片的な骨格から推定される肩高は3.6~3.8m以上にもなり、推定体重も9トンに及びます(Larramendi, 2015)。
〈※ギガンテウム種は肩高4m、推定12~14トンにもなります(Christiansen 2003 の試算ではおよそ15トン)。このように既知のデイノテリウム属の全種は長鼻類の中でも際立って大型でしたが、上野国立科学博物館に展示されている「デイノテリウム」標本(オリジナルの骨格標本ではない?)は取り立てて大型という印象はなく、同展示場のアメリカマストドン標本よりも小さいことを、不思議に思った人もいるのではないでしょうか。私もその一人ですが、あの標本は、デイノテリウム属ではなくプロデイノテリウム属種の骨格に基づくレプリカである可能性が否定できないと思います。
と言って、確証があるわけでも、オリジナル骨格について調査したわけでもないので、明言は避けねばなりません。仮にプロデイノテリウムだとすればアジアゾウ大ですから、同標本の大きさ的には、辻褄が合いそうですけども(若個体の可能性も否定できないでしょうか?ただ、標本タグに種名が表記されていないことも気になります)… 脱線していまいました。〉
プロデイノテリウム(Prodeinotherium hobleyi)生体復元画
(中新世同時代の巨大肉歯類、メギストテリウム属種に、下腿部を噛みつかれ襲撃される(!)場面)
Image by ©the Saber Panther (All rights reserved)
要するにアフリカデイノテリウムは現生アフリカゾウを凌駕する驚くべき大きさだったのですが、史上最長身クラスの長鼻類であり、肩高4.5m前後にも達したレッキゾウ(Larramendi, 2015による推定体重は12トン超)の偉容と比べてしまうと、少々見劣りしたであろうことは否めないと思います。
二種の特大級の、かつ頭骨形状は著しく違っていた長鼻類が一緒にいる光景は、さぞや壮観な見ものであったことでしょうね。
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アフリカ東部、ケニヤのクービ・フォーラ鮮新世地層で見つかったレッキゾウ(Elephas atavus)の特大個体の復元画。肩高約4.5m、推定体重13トン以上。このレッキゾウはパレオロクソドン属に含まれる場合があるのですが、同属のタイプ種、ストレートタスクゾウ(Palaeoloxodon antiquus)のゲノム解析、その驚くべき解析結果から生じた分類の可否についての問題を論じてみます。
以下、レッキゾウ自体に関しても、いくつか興味深い情報を付しました。
〈巨大レッキゾウの復元画と、パレオロクソドン分類についての考察〉
「ストレートタスクゾウ(Palaeoloxodon antiquus)のゲノム解析」
更新世中‐後期の主に間氷期にユーラシア西方に分布していた魁偉な巨ゾウ、「ストレートタスクゾウ」ことパレオロクソドン・アンティクウス Palaeoloxodon antiquusは、最近の一連の長鼻類ゲノム解析の主役的存在になっています。その背景には、ターゲットシークエンス解析技術の急速な進展に伴い、ストレートタスクゾウや北米コロンビアマンモスなど、温帯域の絶滅長鼻類の遺伝情報の効率的な解析の実現化があり、結果、複数の驚くべき情報※が明るみになっています(※2022年10月現在では、更新世北米に分布したアメリカマストドンと、同南米分布のノティオマストドンの遺伝情報の抽出、解析にも成功し、それに基づく分岐進化史仮説も発表されている)。
一連の解析の初期の発表(2016年)では、ストレートタスクゾウは遺伝的に現生マルミミゾウ(Loxodonta cyclotis)と極めて近縁で、マルミミゾウとサヴァンナゾウ(Loxodonta africana)間の遺伝的近縁性よりも、さらに近しいことが示されました。私も当時ブログで紹介しましたし、ご存知の方もいるでしょう。
この結果だけを見ると、Palaeoloxodon antiquusとマルミミゾウは単一クレードを形成するため前者はアフリカゾウ属(Loxodonta)に編入されて然るべきであり、パレオロクソドン属分類の有効性には疑問符が付くこととなったのでした。
2018年に実施された後続の解析(Palkopoulou et al., 'A comprehensive genomic history of extinct and living elephants', 2018)においてストレートタスクゾウのゲノム情報に基づく進化史はより具体的に示され、それによると同種は現生マルミミゾウだけでなく、ウーリーマンモス(Mammutus primigenius)の直系祖先や、アフリカゾウ属の共通祖先からも遺伝的寄与(genomic contribution)を受け継いでいたことが明らかになりました。
この一見不可解にも思える遺伝子混合(genetic admixture)は、段階的に生じたゾウ科種の大規模な異種交配現象、その結果としての遺伝子移入(introgression)によって説明がつくとされています。実際、一連の長鼻類ゲノム解析の大きな成果の一つは、ゾウ科各種の進化と多様化には、異種交配と生殖的隔離の両方が大きく寄与していたことが確かめられた点でしょう。
しかし、ストレートタスクゾウが遺伝的にアフリカゾウ属と近縁であり、特にマルミミゾウとは最も近しい関係にあるという事実に変わりはありません。パレオロクソドン属はアジアゾウ属(Elephas)と形態的に類似することが長らく主張されてきたことを考えると、実に意外な結果だといえます。
この形態的類似について、私はストレートタスクゾウがアフリカゾウ属だけでなくウーリーマンモスの直系祖先からの遺伝的寄与をも受け継いでいることに、原因があると考えています。
この「祖先筋」は、おそらく現生のアジアゾウ属的な特徴を色濃く有していて、それがパレオロクソドン属において保持される結果になったとは考えられないでしょうか。もしこの仮説が正しければ、アジアゾウの形態的特徴というのはマンモス属 Mammutus(アジアゾウ属と直系の共通祖先から分化した)においては概ね失われているので、原始形態型だと見做すことができそうです。
ストレートタスクゾウ(パレオロクソドン・アンティクウス Palaeoloxodon antiquus) 生体復元画
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「パレオロクソドン or エレファス? レッキゾウ」
ここで話題を転じて、今回の復元画の対象である古代アフリカの巨ゾウ、「レッキゾウ(Elephas / Palaeoloxodon recki)」関連のお話を少々したいと思います。勿論、パレオロクソドン属分類の是非を問う今回のトピックとも大きく関係のある事柄です。
鮮新世後期から更新世前期にかけて主にアフリカ大陸東部、南部地域に分布した史上有数の巨ゾウ。アジアゾウ属とパレオロクソドン属のどちらに分類すべきかは研究者の解釈によって分かれ、厳密にはその分類はいまだに未定というのが実態です。
本種の頭部形状は極めて独特で、過度なまでに隆起した頭頂や後傾気味の立ち姿勢だけを見れば、大型マンモス属種との連関を想わずにはおれません。臼歯が高冠歯でストリクトなグレーザーであったところも、マンモスとよく似ています。
全身骨格が各地で出ており、特にケニヤは東タルカナのクービ・フォーラ地層で見つかった個体は、長鼻類の単一個体の完全骨格で、肩高が4.5mに達する唯一の例だと喧伝されます(多くの場合、部分的な骨格からや、複数体分の骨格を一体として組み合わせたものからサイズが推定されている)。
A. Larramendi, 'Shoulder height, body mass and shape of proboscideans' ,2015 によると、当標本の実際の肩高は約4.3mなのですが、大腿骨の近位骨端癒合の度合いから没時の年齢を推定すると、長鼻類の成長期に当たり、生き長らえたと仮定した場合、最終的には肩高4.5m超に達したはずだといいます。要するにこのレッキゾウこそが「長鼻類史上最長身」の種類であったとみても、大過ないと考えられます。
しかしこのレッキゾウ、上に紹介したこと以外にもその分類に関して厄介な問題があります。
従来、レッキゾウにはアフリカ大陸だけに分布していた五つの亜種(Elephas / Palaeoloxdon ①recki brumpti, ②recki shungurensis, ③recki atavus, ④recki ileretensis, ⑤recki recki の計5亜種)の存在したことが主張されてきたのですが、近年、この伝統的な仮説が覆りつつあるようです。端的に言えば、それぞれの間に大きな形態的差異が再確認されており、五つすべてではないにしても、いくつかを固有種とみなす必要性が問われ始めたということ。
下の動画は、ブリストル大学のHanwen Zhang博士が英国マンチェスター大学で開かれたシンポジウムで、まさにこの主題を論じたプレゼンテーションの様子です。
少し脱線しますが、私は幸い英語が聞き取れるので、今後こうした英語による貴重なプレゼンなどを紹介する機会を増やせたら、と思います。
以下内容を要約してみましょう。くせのある発音で一部聞き取りにくく、誤解している箇所などあるかもしれない。分かる人がいれば遠慮なく訂正をお願いします。
Elephas recki: the wastebasket? 『エレファス・レッキはwastebasketか?』
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(要約)「エレファス・レッキには複数の亜種の存在が確認されてきたが、いずれも妥当な形態学的類似を根拠に分類されていたのかというと、必ずしもそうではなさそうだ。
プレゼンターによる頭骨形態分析の結果、生息年代が最も新しくタイプ種でもある「Elephas recki recki」(~1.04Ma、エチオピア北部)はパレオロクソドン属と共通の形質要素を具え、より古い
「Elephas recki atavus」(2.0~1.88Ma、ケニヤ東タルカナ)の形質はアジアゾウ属と類似している。最古の亜種である「Elephas recki brumpti」(3.5〜2.85Ma、エチオピア南西部)に関しては、
アジアゾウ属とマンモス属の共通の祖先とみなされる場合がある、謎めいたロシア産の「ファナゴロロクソドン」の形態と興味深い類似がみられる。
これらが長く同一種とみなされてきた背景には、生息地や生息年代の重複の他、いずれもよく似た高冠歯の歯形態を有していることが原因として考えられよう。ただ、類似した高冠歯の歯形については、
更新世の間支配的であった乾燥草原への適応がもたらした、収れん進化にすぎないとみるべきかもしれない。」
以上、Zhang博士のプレゼンの主要箇所だけをごく簡略にまとめただけですし、事態をあまりに単純化し過ぎている危険もあるでしょうが、私の理解が正しければ、Elephas recki recki はパレオロクソドン属に分類されるべきで、その場合、同属では既知の最古の種ということになるはずです。他方、アフリカにはElephas recki brumpti からElephas recki atavus に続く、パレオロクソドン属とは無関係のアジアゾウ属の進化系統も並存していたと。
こう言われてみると、これら全部をレッキゾウ一種のもとに分類する仕方に抵抗感を覚えてしまうことは確かです。同時に、レッキゾウをアジアゾウ属とパレオロクソドン属のどちらの下に分類するかは、どの「亜種」を分析対象とするかによって解釈が変わってしまう危険性も、見えてきます。
もう一つ、レッキゾウ関連の話題を紹介させてください。
アフリカ東部、ケニヤのナトドメリの後期更新世地層(130,000〜10,000年前)から新たに発掘された「エレファス・ジョレンシス Elephas jolensis」の臼歯の形態学的研究(Manthi et al., 'Late Middle Pleistocene Elephants from Natodomeri, Kenya and the Disappearance of Elephas in Africa', 2019)が最近発表されたのですが、内容は、この古代ゾウがアジアゾウ属に分類されるべき妥当性、および、本種はエレファス・レッキから進化したか、あるいはその進化の末期段階であるとする仮説が示されています。
E. jolensis は、汎アフリカ規模の分布、レッキゾウのものと極めて類似した頭蓋ー歯形形態を有しており、レッキゾウと同様にストリクトなグレーザーであったことでしょう。 更新世中期後期境界の頃の気候変動の激しさと増加の度合いは、レッキ - ジョレンシスというグレージングに特化した系統の衰退を招き、代わって混合フィーダーのアフリカゾウ属の繁栄が促されたのであろうということです。
残念ながら、Manthi et al.(2019)はジョレンシスゾウの祖先としてレッキゾウを挙げてはいるけれども、具体的な亜種の特定はしていません。しかしながら、ジョレンシスゾウが明確にアジアゾウ属の頭蓋‐歯形特徴を持つ以上、recki recki から進化したとは考え難い道理であって、その祖先を仮定するならば recki atavus と考えるのが最も妥当ということになるのではないでしょうか。ちなみに、上述のクービ・フォーラ地層のレッキゾウ標本は、recki atavus に該当しますので、ジョレンシスゾウがその直系子孫であったとするならば、同様に巨大種だったのでしょうか(これまた残念ながらジョレンシスゾウのサイズについても記述がなく、分かりません)。
「パレオロクソドン属分類は妥当か」
さて、ストレートタスクゾウ(Palaeoloxodon antiquus)が本質的にアフリカゾウ属系統のヴァリアントであることを示し、アフリカのレッキ - ジョレンシスの系統をアジアゾウ属に分類する最新の仮説を紹介してきました。かくのごときならば、伝統的にパレオロクソドン属に分類されてきた他の種はいずれもレッキ及びアンティクウスから派生しているため、アフリカゾウ属かアジアゾウ属のどちらかに適合することが考えられるわけで、パレオロクソドン属の分類妥当性を疑う声は出てきて然るべきだと思います。
パレオロクソドン属分類は無効化するのでしょうか。
それとも、ストレートタスクゾウ(そしてその後派生したユーラシアのパレオロクソドン属各種)は、異なる系統からの祖先を持つ、いわゆる混合派生種(admixed species)として出現したという解釈をもって、分類妥当性の根拠として受け止められているのかもしれません。どうなのでしょうか。
ともかく、分類を見直すような動きはまだないように見受けられます。
私個人的には、パレオロクソドン属の、もっと言えばゾウ科全体の進化系統を探るうえで今後の進展のカギを握るのは、日本をはじめアジア産のパレオロクソドン属種の遺伝情報解析の成否だとにらんでいます。
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プレヒストリック・サファリ31 『二大巨象 ヘッド・トゥー・ヘッド 取り直し』 パレオロクソドン(エレファス)・レッキ vs デイノテリウム❕
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