クリエイターに、思い入れのあるお店や食事を紹介していただき、「メシ」にまつわるエピソードからモノづくりへの想いをコラムで伺うこの企画。
今回は、誰もが知るチェーン店の「1号店」を2007年から探訪し続ける、飲食チェーン店トラベラーのBUBBLE-Bさんにご登場いただきます。
なぜチェーン店ばかりをめぐるのか?そこには何があるのか?BUBBLE-Bさんをチェーン店巡りへと掻き立てる想いや、チェーン店探訪から見えてきたものについてご執筆いただきました。(マルシェル運営)
わざわざチェーン店に行くなんて
「なんでわざわざ、チェーン店に行くんですか?」
自己紹介のあと、決まって受ける質問だ。
美味しいお店に行くのなら分かるけど……という、少し困惑気味なニュアンスで。
チェーン店と聞いてイメージするのは、駅前にある牛丼店やラーメン店、ファストフードなどだろうか。それらは便利さや安さがウリのお店たちであり、グルメ探訪をする人がわざわざ行くようなお店ではない。
ではなぜ、私はチェーン店に行くのか?
それも、電車やバスを乗り継いで、時には新幹線や飛行機にも乗って行くチェーン店に、一体何があるのだろうか。
本店のパワーを浴びた日
それは、ラーメン店「天下一品」の総本店で食べていた時のこと。独特のコッテリスープが、なぜか他店よりまろやかで美味しいと感じたのだ。
仲間内でも「総本店だけは店内でスープを手作りしてる」という噂があるほど、誰もがその違いに気付いていたが、所詮は都市伝説の域を出なかった。
ある日、北白川総本店のスタッフさんに真相を尋ねてみたところ、「他店と一緒ですよ」との答えを頂いた。コッテリしたスープとは真逆の、あまりにもアッサリとした返答に腰を抜かしそうになった。同じだなんて……!
じゃあ、スープがまろやかで美味しいと感じたのは何故なのか?
総本店という名前が付いてるからそう感じてしまうのか。あるいは創業者の熱き想いが空間の「気」として充満し、味に作用しているのだろうか。
「本店パワー」の真相を探る果てしなき旅
そして天下一品に限らず、他のチェーン店にも同様の〝本店パワー〟があるのなら、本店や1号店に行くと美味しく感じるのではないか?
その真相を探るべく、チェーン店の本店や1号店を巡る果てしなき旅が始まった。
手始めに、都内にある全国チェーン店の本店や1号店の探訪から開始した。「吉野家」なら築地、「モスバーガー」は成増、「バーミヤン」は町田、「プロント」は新宿、「スターバックス」は銀座、「カプリチョーザ」は渋谷……といった具合に、次々と探訪した。
歴史的な展示物や創業者の肖像が店内に飾られているお店もあり、本店や1号店という場所はある意味聖地のような場所なのだと感じた。そしてどのお店も美味しく、〝本店パワー〟の存在は伊達ではないと感じた。
飛行機に乗ってリンガーハット1号店へ
しかし私はすぐに壁にぶち当たった。
「リンガーハットの1号店に行くには、長崎に行く必要がある……」
覚悟を決めた私は飛行機のチケットを買い、翌月には長崎へと飛び立った。
リンガーハットの1号店は、長崎駅からはかなり遠く、やむなくタクシーに乗った。
「リンガーハットの長崎宿町店まで」
と行き先を告げると、車はひたすら山間のバイパスを走り、トンネルも抜けた。どんどん不安になる気持ちを表すかのように上がっていく料金メーター。
運転手さんに尋ねてみた。
「長崎で美味しいちゃんぽんって、どこですかね?」
すると、
「リンガーハットが美味しいと思いますよ。よく行きますよ」
との答え。長崎の人はリンガーハットを推すという噂は本当だった。
やがてタクシーは、バイパスの中腹にポツンとあるリンガーハットの1号店、長崎宿町店に着いた。
高台にある店内からは、山々が一望できる素敵なロケーション。
そこで食べた「長崎ちゃんぽん」は、とてつもなく美味しかった。
何万円もかかった一杯のちゃんぽん、忘れることのできない味だ。
旅の目的としてのチェーン店
探訪開始から数年が経ち、全国区のチェーン店なら大半を探訪し終えた私は、ご当地チェーン店の探訪まで活動の幅を広げた。
日本には数多くのご当地チェーン店がある。静岡の「さわやか」、函館の「ラッキーピエロ」、大阪の「551HORAI」、福岡の「牧のうどん」などはご存じの方も多いかも知れない。ご当地ならではの個性が光り、全国から多くの人が訪れる人気店だ。
ご当地チェーン店探訪を開始して分かったのは、それは巨大な底なし沼だということだった。
上記のような有名店ならともかく、縁もゆかりもない土地の知らないお店の中から、目的地となりえるチェーン店の本店や1号店を見つけ出さねばならないからだ。
その調査方法はこうだ。
ターゲットの街を決めたら、Googleマップの縮尺を最詳細にして、駅前や繁華街、国道沿いにある飲食店の名前を追っていく。
同時に食べログを開き、その地域にある店舗一覧リストを見ながら、正式名称や開店・閉店情報を調べていく。
店名に「○○店」と付いていればチェーン店である可能性が高いため、その店名で検索する。公式ホームページがヒットしてチェーン店であることが確認できれば、第一段階クリアだ。
(どこからが厳密にチェーン店と言えるのか?という定義はひとまず置いておく)
店舗の歴史とともに味わう
次に、私が行きたいのはあくまでも本店か1号店なので、店舗一覧の中からどの店舗が本店か1号店なのかを知る必要がある。
ホームページ内の「会社情報」のところに「沿革」ページがあれば、「○○年に○○で1号店を開業」という情報で知ることができるが、書かれてない場合や、ホームページ自体が存在しない場合もある。そういう時は平日の営業時間内に、代表の電話番号に問い合わせる。
そこに電話をすると、社長さんに直接繋がることが多い。
「あの、全国のチェーン店を巡るという趣旨のブログをやっている者なのですが……」
という自己紹介によりポカーンとされてしまうことが多いが、ブランドの歴史やメニューなどについて下調べをしたこと、そして遠方から向かうことを伝えることで、話が弾み出す。
そのブランドの歴史や1号店の場所などを直接お聞きする。ネットに載っていない情報の1次ソースに触れていることが嬉しい。
いつの間にか社長さんと話が盛り上がり、「今あれが限定メニューだから、この季節はあれが美味しいから是非食べて」と直接プッシュされるのも楽しい。
後日そのお店に向かい、代表的なメニューを平らげる。美味しくないわけがない。
なんせ地元で愛されているから、チェーン店として成立しているのだ。地元の方々が次々に訪れる空間で地元の方々と同じものを食べるのが、私にとって一番の観光である。
そこにチェーン店がある限り
そうやってチェーン店探訪ツーリズムは今年で14年目となり、2021年4月現在で47都道府県の合計400店舗ほどを探訪した。
旅費や食費などに費やした自腹費用は500万円を超えていた。
「なんでわざわざ、チェーン店に行くんですか?」
それは、〝本店パワー〟を知ってしまったから。
そして、地元の人達と同じものを食べるのが、自分にとって最高のグルメだから。
まだまだ全国に、そして世界には未踏のチェーン店がたくさんある。本店・1号店探訪の終わりは見えない。
■Profile:
BUBBLE-B
滋賀在住の飲食チェーン店トラベラー、PRプランナー、ミュージシャン。
2007年からスタートした飲食チェーン店本店・1号店への探訪は400店舗を超える。2013年には「本店巡礼 ~ルーツを巡る旅」(大和書房)を出版。
ブログ「本店の旅」 1goten.jp
Twitter @bubble_b