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【モノづくりとメシ】誰よりも好きになって、情熱的に伝える(イベントディレクター・天谷窓大)

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クリエイターに、思い入れのあるお店や食事を紹介していただき、「メシ」にまつわるエピソードからモノづくりへの想いをコラムで伺うこの企画。
今回は、イベントディレクター・天谷窓大さんにご登場いただきます。天谷さんが立ち上げに携わった「品川やきいもテラス」は、各地で進化した「未来系」の焼き芋を食べられるフードフェス。よく知っているようで、まったく知らなかった焼き芋の新たな姿に多くの人が魅せられ、1万人もの人を動員しました。イベント立ち上げにまつわるエピソードについて伺います。(マルシェル運営)

「誰もが知っているモノの、誰も見たことのないカタチ」

「誰もが知っているモノの、誰も見たことのないカタチ」
「誰もが知っているモノの、誰も見たことのないカタチ」。SNSの普及で誰もが自由に表現できるいま、多くの人々の心を一瞬でわしづかみにする、いわゆる「バズる」物事の多くは、この要素を持っていることが多いのではないでしょうか。私はそれを、「焼き芋」のなかに見つけました。

バリバリの音が割れたスピーカーから流れる「石焼き芋〜♪ おいも♪」というおじさんの声。軽トラックの荷台に積まれ、甘い湯気を吹き上げる焼き窯。そしてスポーツ新聞に包まれた、アツアツのさつまいも。いわゆる「焼き芋屋さん」に対して多くの人が抱くイメージは、こんなところではないでしょうか。
 

1万人もの人が焼き芋を食べに集まった

1万人もの人が焼き芋を食べに集まった
2016年秋。イベント制作会社の社員として「季節モノ」のイベント企画を任されていたころ、会社の机で漠然とテーマを考えていた私は上司に「これから寒くなるし、みんなで焼き芋を食べるイベントなんかいいんじゃないか?」と声をかけられ、「焼き芋かぁ……」と、なんとなくの気持ちで「会社へ行く前にみんなで焼き芋を食べる会」と企画書に仮タイトルを付けました。見込み人数は300人程度。「どうかね〜? そんなに来るかね?」と、社内でもみんなが首をかしげていたのを覚えています。

それから4ヶ月後。「100人も来てくれたらスゴイけどね」と思っていたそのイベントには1万人が詰めかけ、現場は大パニック。ほんの小さなマルシェのつもりで企画したイベントが、あれよあれよと「巨大フェス」になってしまったのです。「店の合間にちょっと東京観光でもしようかな〜」と開催前に笑顔で語っていた焼き芋屋さんは「ヒマなどころか、24時間体制で焼き続けることになるなんて……」とゲッソリした表情で、しかしとても嬉しそうに帰っていきました。これが、私が2019年まで関わっていた「品川やきいもテラス」第1回目の顛末です。
 

「未来系」の焼き芋たちとの出会い

「未来系」の焼き芋たちとの出会い
予想外の人手に驚きつつ、実は内心「思ったとおりだった!」という思いもありました。開催準備にあたって全国の焼き芋専門店をまわるなかで、現代の焼き芋のすさまじい進化ぶりを目の当たりにしたのです。ハチミツ並みの糖度を持つものや、フルーツと間違えるほどにジューシーな食感を持つもの、はてはそのままスプーンですくって食べられるようなカスタードクリームのような舌触りのものまで……。

これまでの「ホクホク」一択のイメージしかなかった自分にとって、これら“未来系”の焼き芋たちの出会いは「よく知っているはずだったのに、全然知らなかった!」と、文字通り五感レベルの衝撃でした。

焼き芋よろしく「火がついてしまった」私は、味の素が運営する「食の文化ライブラリー」(東京・高輪にある食品専門の図書館。「さつまいも」だけで棚が存在するほどの充実度!)に通い詰めながら焼き芋専門店の方々にお話を伺い、どんどん焼き芋の“沼”にハマッていくことに。新しい知識を知れば知るほど、焼き芋の世界の深さにどんどん夢中になっていきました。
 

人が関わると、その数だけ新しいものが生まれる

人が関わると、その数だけ新しいものが生まれる
とくに面白いなと思ったのが、全国各地で作られている「ブランド芋」の存在。現在日本に出回っているさつまいもの品種はおよそ20種類と言われているのですが、全国各地のさまざまな土壌で育てられたお芋は、その「土地」によって、羊羹を思わせるみっちり濃厚な舌触りになったり、パッションフルーツのような甘酸っぱくフルーティーな味になったり、同じ焼き芋とは思えないほどになることを知りました。たとえ同じものであっても、人が関わるとその数だけ新しいものが生まれるということを、私は知りました。

「全然知らなかった!! 焼き芋がこんなに進化しているなんて!!」自分の感じた興奮をいかにそのままお客さんに伝えられるか──。「品川やきいもテラス」の会場でお客さんたちが次々と焼き芋を手にSNSでつぶやているのを見たとき、「よかった!! 伝わった!」と感激の思いで胸がいっぱいになったのを今でも覚えています。
 

誰よりも好きになって、情熱的に伝える

誰よりも好きになって、情熱的に伝える
『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(岡田芳郎著)という長いタイトルの本があります。名画座を山形の酒田につくり、東京で劇場運営に関わった佐藤久一という人が、食堂への「左遷」をきっかけに「映画も料理も同じ目利きじゃないか!」とプロデューサーから料理人に転身し、ふたたび酒田に戻ってフランス料理の名店を立ち上げるというノンフィクションです。この本に登場する佐藤氏は、店でお客さんを前に「このマスはこの山のきれいな水をたくさん飲んで育ったから、これだけ美味しいのです……」と食材を実際に目の前で見せながらそのストーリーを語り、それが唯一無二の「味」となって、全国からお客さんが押し寄せたといいます。

誰よりもそれを好きになって、そのディティールをいかに細かく、情熱的に伝えるか──。自分のものづくりのなかには、この「誰よりも好きになる」という思いが常にあります。
 
■Profile:
天谷窓大(あまやそうた)
イベントディレクター・構成作家。2017年、全国の焼き芋専門店の味を紹介する都市型焼き芋フェス「品川やきいもテラス」の立ち上げに参加し、2019年まで企画運営を担当。このほかにも、平日の通勤時間を利用して“過激に遊びながら会社へ行く”活動「エクストリーム出社」など、日常のなかにある面白さをイベント化して楽しむ仕掛けを行うほか、企業PRやラジオ番組の企画構成にも携わる。
Twitter @amayan