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採掘は命がけ!黒曜石に魅了され、東京の島「神津島」に移住した黒曜石マニア

―見出し
マルシェル1周年記念としてスタートした、注目のクリエイターズインタビュー。今回は、大学で神津島(こうづしま)の黒曜石(こくようせき)の研究をはじめ、そのままのめり込んで島に移住されたという神津オブシディアンラボの林悠平(はやし ゆうへい)さんです。

活動のきっかけや制作過程、黒曜石の魅力などについてお話をうかがいました。

――まず神津オブシディアンラボの活動をはじめたきっかけと活動期間を教えてください。

――まず神津オブシディアンラボの活動をはじめたきっかけと活動期間を教えてください。
大学で考古学を専攻し、卒業論文と修士論文を神津島の黒曜石をテーマにして書いたのがきっかけです。大学での研究も含めると黒曜石にのめり込んでから10年近くになります。

――長く続けていらっしゃるんですね。活動名はどのような意味があるのでしょうか?

「オブシディアン」というのは黒曜石の英名です。今住んでいる神津島における黒曜石の研究所ということで「ラボ」という名前を組みあわせ、神津オブシディアンラボという社名にしました。

――黒曜石の魅力にここまで取りつかれた理由を教えていただけますか?

――黒曜石の魅力にここまで取りつかれた理由を教えていただけますか?
思い起こせば、小さな頃からきれいな石や化石を見ることが好きでしたね。
実は海外にいた期間が長かったのですが、幼い頃に自然史博物館のような場所で大きなアメジストの鉱床を見たとき……1時間ほどはりついて離れず、家族に置いていかれたことがあります。

――当時から生粋の石好きだったのですね。

はい、子どもの頃ディアゴスティーニの「トレジャーストーン」というシリーズをすべてそろえました。確か119巻まであったと思います。

――子どもがあれをすべて揃えるのは並大抵ではないと思います。その後、黒曜石の魅力に取りつかれたのですね。

―
その後は考古学の道に入っていきましたが、大学の卒論テーマを検討している際、旧石器時代に人の手により「海をわたった黒曜石」があるという事実を知り、詳しく調べてみたらすごくきれいだったんです。黒曜石は天然のガラスということもあり、非常に透明感がありました。

そのときは研究対象として石器に使われている黒曜石を、それこそ何千も分類していました。普通なら嫌になりそうなものなのですが、そうはならなかったことが今に至る理由ですね。 加工に関しては独学ではじめ、いろいろ試行錯誤したのですがうまくいきませんでした。

そこで「これは人に聞いたほうが早いな」と思い、北海道に修行にいくことにしたのです。

――修行先は北海道のどの辺りだったのですか?

帯広の少し北にある足寄(あしょろ)という場所です。北海道は黒曜石の一大産地で、その中でもオーロラのような模様を持つ玲瓏石(れいろうせき)と呼ばれるものがあり、それを磨いている方に基礎的な部分を教えて頂きました。
教えてもらった造形技術のおかげで今の作品が形になっている部分が大きいので、修行がひとつの転換点といえます。

――確かにそれは大きなポイントですね。黒曜石の販売をはじめる前と後で、何か気持ちに変化はありましたか?

最初はこれで食べていけるか不安な面もありましたが、実際に作品を作って販売できるイベントもたくさんあることが分かり、なんとかなるものだという実感はありますね。

採集から加工販売まですべて自分の手で行っているので、以前よりも自立した生活をしていると感じます。 お気に入りの石が評価されお迎えがくる(売れた)ときはやはり嬉しいものです。

ただし石の採集は基本的に命がけなので、いつまで身体が持つかは心配です。実を言うと、売るのはそっちのけで、黒曜石の話をするほうが好きだったりします。

――プライベートとのバランスのとり方で気をつけていることはありますか?

独り身な上好きなことを仕事にしたようなものなので、本業とプライベートの差は現在あまりないのですが、黒曜石一辺倒にならないよう他の仕事や趣味にも積極的に取りくむようにしています。新しいアイデアのきっかけにもなりますしね。
あとは基本的に無理はしない。気分が乗らないときはやらないようにしています。無茶をするとケガをすることもありますので。
 

――採石の際に危険な場所に行くという意味ですか?

――採石の際に危険な場所に行くという意味ですか?
採石は場所によっては命がけの作業なのでそれはそれで危険なのですが、黒曜石を加工しているときに集中力が途切れると、機械でケガをしたり指が吹っとんだりする可能性もあります。

――それは危険ですね。ちなみに採石現場が危険ということなのですが、どういった場所に行かれるのでしょうか?

島の集落に比較的近い産地もありますが、砂利のような黒曜石が広がっているまっ黒なガラス質の砂浜に行くことがあります。島の最果ての場所ということもあり、ロープをつたって崖くだりをしなければたどりつけません。
船で近づいて、現場まで泳いで行く場所もありますね。大きな黒曜石が取れた場合はそれを持って泳がなくてはいけないから「どうしよう……」ということになるケースもあります。 採石場は海沿いにあることが多いので、波が高いと近づけないことも多いです。
 

――そういった場所は事前に目星をつけてから行くのでしょうか?

文献を参考にしたり、地元の人に尋ねたりして場所を絞りこみます。その上で実際に現場におもむいて確かめるという流れです。
 

――自分が好きだと思うものを継続するコツがあれば教えてください。

それだけをやり続けないことですね。燃えつきないこと。苦痛になるレベルまで頑張らず、身の丈に合った活動をすることだと思います。 好きなことをいくつか持っておいて、飽きてきたら別のものにシフトしてみることも大切です。その後また戻ってくるという感じですね。
 

――神津オブシディアンラボでイチオシの商品とその理由を教えてもらえますか?

――神津オブシディアンラボでイチオシの商品とその理由を教えてもらえますか?
スターダストオブシディアンのプレートです。
薄い板のような状態にした黒曜石になります。薄い板状に加工することで石が持つ星空のような模様と、ものによっては光を通す透明感を楽しむことができるため人気があります。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する黒曜石の星座地図のような雰囲気の作品です。裏から光をあてることでスターダストオブシディアンのきれいな模様を存分に楽しんでもらえます。

――制作時のこだわりを教えてください。

元々の形を活かすことです。石によって個体差があるので、それにあわせた加工をするよう心がけています。

――石の形成はどのように行うのでしょうか?

―
ディスクグラインダーという円盤の回転で研磨する機材と、原石を切るための岩石カッターを使用します。最後につや出しをする際に研磨剤を使いますね。

――作品を購入するお客さんに共通点はありますか?

年齢層にかたよりはありませんが女性が多い傾向にあります。最近はパワーストーンとしての効能を求めて購入される方が多いですね。つい先日購入された方は瞑想に使うとおっしゃっていました。

――最後にこれから制作や販売をはじめる人にアドバイスを一言お願いします。

私も「気がついたらこうなってました」というタイプなのでアドバイスしづらい部分はありますが、ある程度の直感は信じるべきだと思います。「これはイケるな」と思ったらそれを信じて、まずは勇気を持ってやってみることが大事ですね。

 
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■Profile:神津オブシディアンラボ 林悠平
東京の離島・神津島在住。黒曜石を採掘から加工、販売まで行っている。
黒曜石マニアとしてイベントやTVでも活躍。
▶ブログ:https://blog.goo.ne.jp/kouzuobsidianlabo
▶出品物一覧:https://marchel.goo.ne.jp/kouzuobsidianlabo