『マルシェルコラム』作品づくりの刺激になる記事を配信中!

若手女性伝統工芸集団「凛九」メンバーが語る!異業種を経て見えた伝統工芸の「魅力」と「未来」

見出し
伝統工芸の最前線で活躍する女性職人グループ「凛九」のメンバーに、さまざまなテーマでお話をうかがう対談企画。第4弾は「異業種からの伝統工芸職人」です。

「若い頃から長年の修行を経て職人になる」というイメージの強い伝統工芸の世界。しかし中には、「その価値や素晴らしさを未来へ継承したい」と異業種から転向し、職人の道を選んだ人もいます。「凛九」代表であり、伊勢根付職人の梶浦明日香さん、漆作家の大内麻紗子さんもそのひとり。その立場だからこそわかる伝統工芸の魅力や問題点、次世代への継承について、お聞きしました。

――第1弾の対談では、梶浦さんは職人になる前、NHKのキャスターをなさっていたとうかがいました。大内さんのご経歴も教えていただけますか?

――第1弾の対談(リンク挿入)では、梶浦さんは職人になる前、NHKのキャスターをなさっていたとうかがいました。大西さんのご経歴も教えていただけますか?
大内:職人になる前はスポーツ用品メーカーに勤務していました。デザイナーとして、寝る間も惜しんでスポーツウエアの制作に携わっていました。

――なぜ職人の道を志すようになったのでしょうか?

大内:アパレル業界では製品が売れ残ってしまった場合、安売りされ最終的には廃棄されます。流行のサイクルが早いため、頑張って作っても忘れ去られたり、後世へ残すことができません。そこに「虚しさ」を感じていました。一方、昔から憧れを抱いていた「芸術」は後世まで残っていきますよね。そのことに改めて魅力を感じ、芸術の道へ進路変更したいと思うようになりました。

――それから、どのようにして漆芸の道に進むことになったのでしょうか?

大内:スポーツメーカーを退職し、芸術系の予備校へ通いはじめました。先生から「漆芸」を勧められたのをきっかけに、その奥深さに魅力を感じるようになったのです。それまでは「漆」について、「お椀に塗ってあるもの」くらいの知識しかありませんでした。

――偶然の出会いから、一気に漆の世界にのめり込んでいったのですね。

――偶然の出会いから、一気に漆の世界にのめり込んでいったのですね。
大内:その後、予備校を卒業し香川県漆芸研究所で学び、三重県伊勢市へ移りました。伊勢でただ一人、神職のための「浅沓(あさぐつ)」を制作している西澤利一氏という漆職人がいると知り、興味をもったのです。「浅沓」は、神職の資格を有した者しか履くことのできない神聖なものです。木型に和紙を張り、下地を行い、繰り返し漆を塗って仕上げます。工房へ見学に行き、その真摯で丁寧な作業に心を打たれ、制作の手伝いをさせていただく運びとなりました。
見出し
――ひとつひとつ時間をかけて作る漆作品は、短いスパンで量産するアパレル製品とは大きく異なる業態ですね。

大内:そうですね。「漆器」はいくつもの工程を丁寧に行い制作するので、湿気などにも強く頑丈です。防虫、防腐、抗菌効果にも優れていて、使えば使うほど人の手の油などにより美しい艶が出てきます。そのような変化を楽しみながら長く使い続けられることは、「漆」の大きな魅力ですね。
見出し
梶浦:大内さんからは、「ものを大切にし、決して無駄にしない」という姿勢を強く感じます。職人は新しい道具や材料、技法などを試しながら制作活動を行うので、どうしても所々に「無駄」が生じてしまいます。しかし、大内さんはそういった「無駄」を極力無くそうと努める職人です。その姿勢は、前職の経験があるからこそではないでしょうか。
大内:私には現在、「師匠」と呼べる人がいませんが、その環境だからこそ新しい挑戦をしながら制作ができると思っています。材料を大切にするのはもちろん、「これって漆作品なの?」と驚いてもらえるような、漆の可能性を広げる作品作りを目指しています。

――梶浦さんから「前職の経験」という言葉がありました。異業種から伝統工芸職人への転向で、よかった点や戸惑った点はありますか?

――梶浦さんから「前職の経験」という言葉がありました。異業種から伝統工芸職人への転向で、よかった点や戸惑った点はありますか?
梶浦:「従来のやり方を変えないことがよい」とされる伝統工芸界に戸惑いはありましたね。そんな中でもその素晴らしさを伝える活動を続けていられるのは、キャスター時代に行動力や交渉力、プロデュース力などを培えたからかもしれません。私たちが行っている「普及活動」は、伝統工芸界ではこれまであり得なかったこともあります。それに理解を示し、私の立場を守ってくれる師匠の存在もとても大きいです。

大内:職人は家族ぐるみで制作や工房を切り盛りしていたり、人と人との距離感が近いことが多いです。会社勤めだった私にとって、少し驚いたこともありました。でもそのような環境だからこそ、貴重な「浅沓」制作に携わることができ、技術を習得できたのだと感謝しています。

――そういった戸惑いや驚きを乗り越えて作品を作られているおふたりですが、梶浦さんから見て大内さんの作品はどのような魅力がありますか?
見出し
梶浦:彼女の作品からは高い「デザイン力」を感じられます。デザイナーとして培った感度の高さで、彼女ならではの世界観を表現しているのです。モダンで可愛らしく、日常にも取り入れやすい作品で、とても魅力的なんですよ。


大内:一般的に「漆」は、「高貴で高級」というイメージがあると思います。作品作りでは、どう見せたら共感を得られるか、「もっと知りたい」と思ってもらえるかという視点を大切にしていますね。

梶浦:従来の「漆」のあり方に縛られず、彼女自身をブランディングするような発信活動に力を入れている点も素敵だなと思います。

――たとえばどのような「発信」をされているのでしょうか。

――たとえばどのような「発信」をされているのでしょうか。
大内:漆の「技」を見せること、制作に力を注ぐことはもちろん大切です。しかし「どうすれば注目してもらえるか」と考えたとき、「ブログやSNSで私自身をさらけ出し、興味をもってもらうことからはじめてみよう」と思いました。実は昔「声優になりたい」と思っていた時期があったのですが、SNSでそのような発信をしていたことをきっかけに興味をもっていただけたこともあります。そのような繋がりをどんどん増やしていきたいですね。

――制作過程をビジネスにする「プロセスエコノミー」の概念ですね。大内さんから見て梶浦さんの活動や作品はいかがですか?

大内:伊勢根付の技術の高さはもちろん素晴らしいです。さらに梶浦さんのすごいところは、そのプロデュース力や活動の計画力、実行力であると思います。梶浦さんのおかげで、「凛九」メンバーは、想いの詰まった活動や効果的なプロモーションが行えています。日々感謝しています。

――頼もしいリーダーなのですね。そんな梶浦さんが作る「伊勢根付」の魅力も聞かせてください。
見出し
大内:思いやり溢れるお人柄がにじみ出る作品ばかりです。 たとえば、病気を患う母を案じる娘さんのために作られた「かぐや姫」という作品は、姫の表情がとても柔らかく、心をホッと和ませてくれます。身につけてくれる人のことを想い、その人に寄り添う作品作りが梶浦さんならではだと思います。受け取り手はその想いを汲み取り、お守りのように大切にされるようです。
見出し


――第1弾でうかがった「今後の抱負」として、梶浦さんは「職人として成長しながら、『凛九』のメンバーと伝統工芸の魅力を伝え続け、若い人たちに受け継いでほしい」と語っていらっしゃいました。大内さんの今後の目標も教えてください。

大内:「凛九」のメンバーはみな、梶浦さんと同じ目標を掲げています。私自身としては、マルシェルなどのブログやSNS、イベントや展示会などの活動により、「裾野を広げること」に注力していきたいです。芸術として「頂点を目指す」活動も大切ですが、多くの人に興味をもってもらえるような活動が伝統工芸を未来に残すためには必要と考えているのです。加えて、技術的にも磨きをかけ、しっかりと「収入に繋がる活動」にも力を入れたいと考えています。
見出し
――「売るための作品作り」ということでしょうか?

大内:そうともいえますね。伝統工芸を若い人たちに受け継いでもらうには、まず「お金を稼げない世界」というマイナスイメージを払拭していく必要があります。漆芸の世界には、日常で使うクラフト的なものを作る職人よりも、美術作品を作る人が評価されやすい風潮があります。

――品評会などに並んでいる作品のことですね。

大内:そういった活動ももちろん業界全体を高めていくには大切なことです。ただ、職人として生計を立てていくためにはそれだけではなくもっと身近に、手に取りやすいところに確かな技術で作られた商品があるということも重要です。工芸品が身近になれば需要も高まり、後世に伝統工芸を継承することにも繋がります。「技術を認めてもらうこと」と、「手に取りやすい商品を作ること」のバランスは難しいですが、しっかりと生計を立ててイキイキと活動する私たちの姿を発信していきたいです。その姿を通して若い人たちに「伝統工芸界は楽しくて素敵な世界」とか、「やりがいのある仕事」と感じてもらえたらよいですね。

梶浦:そういう観点で見ると、マルシェルは販売だけでなく宣伝や販促効果も期待できる心強い存在です。今はコロナ禍の影響でイベントや展示会が実施しにくい情勢である上、独自のオンラインショップは自力で運用しなくてはならない負担も伴います。今後もマルシェルを活用させていただきながら、「凛九」みんなでステップアップし伝統工芸界の底上げをしていきたいですね。
見出し
漆職人・大内麻紗子さんの商品一覧はこちら

伊勢根付職人・梶浦明日香さんの商品一覧はこちら