『マルシェルコラム』作品づくりの刺激になる記事を配信中!

ブレイクする作家は、やっていることが好きで他人に迎合しない(手紙社・小池 伊欧里さん)

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マルシェル1周年記念としてはじまりました、注目のクリエイターズインタビュー。
5万人以上の来場者を集める東京蚤の市をはじめとし、もみじ市や、布博、紙博。ハンドメイドでものづくりをしている人なら、一度は耳にしたことがあるであろうイベントを手がけるのが、手紙社さん。
出店者の公募を一切せず、スタッフ自らが足を使って探し集めた選りすぐりの作家さんたちは、手紙社の生み出すコンテンツの要となっています。
これから活動の場を広げていきたいというクリエイターにとって、どのようにすればキュレーターやイベント主催者の目にとまるのか?
そのヒントを探るため、手紙社でイベントチームの統括をつとめる小池 伊欧里さんに、作家さんの探し方や、SNSでの発信のコツなどに関するお話を伺いました。(マルシェル運営)

気になる作家さんには必ず会いに行く

気になる作家さんには必ず会いに行く

▲ 写真:木村雅章

――手紙社のイベントでは、出店する作家さんをどのようなポイントで決めていくのでしょうか?

小池さん:明確な基準やルールはありませんが、たとえば「東京蚤の市」であれば、古道具やアンティーク、そこに親和性のある雑貨。ただ単なるマルシェイベントだとつまらないので、そこにエンターテイメント要素を入れる。そういった総合的な観点から出店してくださる作家さんを集めます。
社内で出店する作家さんの候補出しを行う際、社員それぞれが普段色んなところで目にしたり紹介してもらった作家さんの中から、この人いいなと思う人を推薦していきます。

――作家さんは、どこで探しているんでしょうか?

小池さん:色々ですが、最近はインスタグラムで探す人も多いですね。ただ、写真と実物が違うということも少なくないので、「いいな」と思ったらなるべく展示に足を運んだりして実物を見に行きます。
ずっと手紙社と一緒に活動してきた信頼できる感性をお持ちの作家さんに紹介してもらう、というのは有力な方法のひとつだったりします。そういう方たちは、一緒にイベントを作る時も、積極的に仲間としてサポートしてくださるんです。横のつながりには本当に助かっていますね。

――気になる展示は見に行かれることが多いんでしょうか?

小池さん:そうですね。人によっては「このギャラリーの展示は絶対見に行く」「ここに行けば面白いものがある」という場所を持っている者もいますし、手紙社主催じゃないイベントを見に行ったりもしています。
余裕があれば、大学の卒業制作展も見に行きたいですね。

――イベントの作家さんのプロフィールを見ると、北海道など全国各地にいらっしゃいますよね。実際に足を運んでコンタクトしているのでしょうか。

小池さん:探すきっかけはインターネットの場合もありますが、必ず一度は会いに行って、実際に見たり話したり、というステップを踏んでいます。「もみじ市」では、特にそれを大事にしていて、北海道だろうが九州だろうが必ず取材をしにいきます。
そこまですると作家さんの方も信頼してくれてやる気を出してくれるし、他のイベントとは違うと思ってくれるので、さらにイベントがいいものになります。

――いい作品を作っていてもなかなか日の目を見ない作家さんは、どういうアプローチをしたら、手紙社さんのようなキュレーター的ポジションの方々の目に止まると思いますか?

小池さん:ポートレートや作品を持ち込んでくださる方もいらっしゃいます。それで即「ぜひ一緒に!」となるこは稀ではありますが、知らないことには声をかけられないので、そういったきっかけを作ることは大事だと思います。
手紙社のイベントでは公募はしていませんが、なにかしらアプローチをしていいとは思います。以前お断りした作家さんでも、何年か後に力をつけてイベントに出店していただいたケースもありました。

――この方は手紙社に合うな、合わないな、のジャッジはどういうメンバーでされているんですか?

小池さん:6〜7名の編集部の担当イベントチーム内でざっとふるいにかけて、最終的には代表・北島の判断が大きく関わります。
手紙社の代表・北島と、副代表・渡辺が作ってきた雰囲気、手紙社が一番大事にする「もみじ市」の今まで出店した作家さんの醸し出してきた雰囲気にフィットしているかどうか、という部分が大きいですね。
 

意外性のあるコラボが良い作品を生む

意外性のあるコラボが良い作品を生む
――手紙社代表・北島勲さんの著書『手紙社のイベントのつくり方』(美術出版社)を拝見すると、出店者さんとすごく丁寧に関係づくりをされているなと思いました。出店者さんとの関係づくりの上で大事にしている点はありますか?

小池さん:とにかく丁寧に、リスペクトの気持ちを持って接しています。ただ、作家さんのやりたいことをすべて受け入れるのではなく、なるべく手紙社側からも「こういうことをやりませんか?」というご提案もします。作家さんの挑戦になるようなご提案をし、それで燃えてくれたら素敵なことだな、と思うので。
たとえばイベントに合わせて新作を作っていただいたり、出店する作家さん同士のコラボレーションを持ちかけたり。完成形が想像できるものではなく、「この人と組んだらどうなるんだろう?」という意外性のある組み合わせをご提案することで、さらに素晴らしいものを作り出したいなと思っています。作家さんはアーティストなので、ご提案すると「それ、おもしろい」と反応してくださいます。
これまでの例では、イラストレーターのイラストをテキスタイルにしてバッグを作ったり、絵をキャラクター化して食パンに焼印を押したり、ガラス作家と木工作家とで蓋付きの容器を作るといった、いろんなジャンルのコラボレーションが誕生しました。

――そうやって、そのイベントならではの、そこでしか手に入らないものができるのですね。

小池さん:それを作家さん自身も大切にしてくれますね。

――作家さんを紹介される文章も、型通りではなく血が通っていて素敵です。

小池さん:そう思っていただけると嬉しいです。自分たちが本当に良いと思った作家さんと一緒にやるイベントなので、嘘をついて良いことを並べてまで、どんな作家さんとも一緒にやりたい、というわけではないので。
真実の言葉で、その人の良さを表現できる、ということは最初にお伝えした出店者を探す基準かもしれないですね。
 

作品の力を強め人目に留まる機会を増やしていくこと

作品の力を強め人目に留まる機会を増やしていくこと
――作家さんの中には、手紙社のイベントを通して羽ばたいていく人もいると思います。手紙社さんから見て、世の中的には無名だったとしてもピンとくる作家さんは、どういう方ですか?

小池さん:一番には、自分がやっていることが好きで、いい意味で他人の言うことに迎合しない、ということ。
どんなにマニアックでも、それをやり続けることで予期せぬ角度からオファーが来て活動が飛躍することもあります。
ただ、一個ブレイクしたものができたとしても、それはそれとして、ストイックに新しいことをどんどんやってみたり、自分の仕事に満足しないスタンスの方が多いかな、とも思います。すごくいいものを作っているのに、ご本人は「まだまだです」って。
あとは、最初からあまり安売りしないほうがいいかもしれないです。

――実際に出店した際に、お客様からの反応が良い方はどんな作家さんですか?

小池さん:作家さん独自の世界観を持っていて、それが手紙社のファンの世界観と合致する方かな、と思います。
手紙社の世界観を言葉に表すのは難しいんですが、よく「かわいい」とか「ほっこり系の走り」とは言われますね。作家さんの作品の世界観の積み重ねで、手紙社の世界観が作られていっていると思います。

――ブレイクする作家さんの共通点はありますか?

小池さん:ふと気づいたらメジャーの仲間入りをしていたと、振り返ったら気づくことが多いですね。もともと作品が良かったというのはもちろんですが、メディアの露出が増えたりとか、なにかしらきっかけが重なるんでしょうね。
運の力も必要だとは思いますが。

――手紙社さんのイベントだと、他の場でキュレーター的な立場の方も見に来るでしょうね。

小池さん:そうですね、ギャラリーや他のイベントを運営・主催している方、百貨店の方なども結構いらっしゃいますね。

――作品の力を強めて、出られる場には出て、そういう方の目に留まるようにしていく、というのが、現実的なブレイクへの道なんでしょうかね。
作家さん側のSNSの発信の仕方で、なにかコツやアドバイスはありますか?

小池さん:一番は、いい写真を撮ることでしょうか。特にオンラインの場合、実物は素晴らしいのに写真で損しているな、というケースも。写真は今の時代、重要だと思っています。
光や背景などを気にして撮っている方は強いですね。いずれにしても作品に自信を持っていて、それをより良く見せたいという思いが大切なのかもしれません。
 

オンライン時代の発信について

オンライン時代の発信について
――コロナ禍で手紙社さんのイベントの形態は変化しましたか?

小池さん:この1年はリアルなイベントができず、オンラインにシフトしています。GOOD MEETING、オンラインの紙博、もみじ市、布博、陶博と、隔月でオンラインイベントを開催してきました。可能性が見えてきたので、5月から「月刊手紙舎」という企画を始動します。毎月1〜7日しかオープンしないオンラインショップで、色々と楽しいものを詰め込めたらなと思っています。
月刊雑誌のようなイメージで、特集や選りすぐりのものをご紹介するとともに、手紙社のメディアとしての役割も持たせたいと考えています。5月はガラス作家やハンコ、リュックサックなどの特集を予定しています。
いままでイベントに出てくれた方を中心に参加いただき、リアルでイベントができない分、オンラインで機会を作っていきたいと思っています。
手紙社がやりたいことは、「自分たちが良いと思った作家さんを紹介し、その方たちと一緒に何か作る」ということ。これまでリアルのイベントが大きな役割を果たしていましたが、それができない分、オンラインでリアルの感覚と近いことをやりたいと思っています。たとえば月刊手紙舎も、単に作家さんを紹介するだけでなく、Zoomを介した双方向の番組などで、作り手とお客さんが交流できる場も持ちたいなと思いますね。

――オンラインのイベントだと、実際の手触りがリアルに比べて分かりづらかったり、ブースの回遊がしづらかったりすると思うのですが、オンラインならではで工夫されていることは?

小池さん:特定の作家さんの目当てで来たファンが、なるべく他の作家さんのものにも目移りしてほしいな、と思っていて、SNSででもまんべんなく作品を出すようにしていますし、なるべく一緒のお店に見えるような作りをこれから月刊手紙舎でもやっていこうと思っています。あとはカテゴリーを開くと、器の作品が一覧で並ぶとか、こちらとしてはどの作家さんも素晴らしいので、「手紙社が紹介している作家さんだったら間違いない」と思ってもらえることが一番だと思っています。そうすると、名前を知らなくても、手紙社イチオシの作家さんなんだ、ということで興味を持ってくれる人が多くなると思うので。
なるべくそうやって、隠れた逸材をブレイクさせるきっかけが作れたら楽しいな、とも思ったりします。

――手紙社は「部員」の方もイベントを盛り上げていらっしゃいますよね。「部員」の方々はどういう形で関わっているんですか?

小池さん:「部員」制度ができてはや一年になりました。前々から構想はあったもののなかなか踏み切れなかったのですが、リアルなイベントができない中でオンラインのつながりが増えたらいいな、と思ったのが立ち上げのきっかけとなりました。部員の方には月額の「部費」をいただき、様々な活動にご参加いただくほか、手紙社オリジナル雑貨の企画会議に入っていただいたりもしています。素晴らしいクオリティの企画書や面白いアイデアを出してくださる方もいて。純粋なファンとして、スタッフ以上に手紙社らしい一面があるので、信頼できるパートナーとして一緒に楽しんで活動できたらいいな、と思っています。
 
■Profile:
小池 伊欧里
新潟県生まれ埼玉県育ち。美術系の出版社に10年ほど勤めたのち「東京蚤の市」の世界観に衝撃を受け2015年に手紙社へ。イベントの企画運営を中心に手がける編集部に所属してからは「東京蚤の市」と「もみじ市」の編集長(リーダー)を経て現在は月刊手紙舎に身を投じつつリアルイベント復活に向けて画策中。

手紙社 公式Webサイト
https://tegamisha.com/

写真:木村雅章(「東京蚤の市」の写真)