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「凛九」メンバーが語る! 伝統工芸の魅力と受け継がれるべき日本古来の「サステナブル精神」

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伝統工芸の最前線で活躍する女性職人グループ「凛九」のメンバーに、さまざまなテーマでお話をうかがう対談企画。第一弾は「サステナブルな社会×伝統工芸について」です。

あらゆる面において「持続可能性」が求められている今、「適量を丁寧に生産し、長く大切に伝承する」という伝統工芸のあり方はまさにサステナブル。伊勢根付職人の梶浦明日香さん、豊橋筆職人の中西由季さんに、伝統工芸職人からみた「サステナブルな社会」や工芸の魅力について、お話をうかがいました。

――まず、おふたりの経歴を聞かせてください。

梶浦:職人になる前は、NHKの名古屋放送局や津放送局でキャスターをしていました。その中で「東海の技」という伝統工芸を紹介するテレビ番組のコーナーを担当し、多くの職人を取材していました。
――まず、おふたりの経歴を聞かせてください。
キャスター時代の梶浦さん
中西:私は子どもの頃から図工が大好きで、職人の「作品で想いを表現する姿勢」に憧れていました。自然と職人を志すようになり、京都伝統工芸大学へ進学しました。

――おふたりとも全く異なる経歴をお持ちですね。梶浦さんはなぜ職人を志すようになったのでしょうか?

梶浦:「東海の技」の取材を通し、伝統工芸の素晴らしさや受け継がれている想い、職人の覚悟などに感銘を受けました。同時に、多くの工房が「後継者不足」の問題を抱えていることに危機感を覚えたのです。伝統工芸を守る方法を考えるうちに、私自身が「職人の素晴らしさ」を発信していくべきだと強く思いました。

―お師匠様と梶浦様


――ご自身が職人の世界に入り、発信していくことに不安はなかったでしょうか?

梶浦:「自分が発信してよいのか」という迷いはありました。しかし、ある職人が放った「職人はそんなに悪い仕事なのか?」という言葉が頭を離れなかったのです。当時、「職人は他の職につけない人がなるもの」という世間的なイメージがありました。つらく厳しい環境で、収入もそれほど多くないからです。それを変えるためには、私のように異なる業界から職人になり、その素晴らしさを発信する必要があると感じました。

――勇気あるご決断ですね。中西さんは大学時代から「豊橋筆」の職人になろうと思っていたのですか?

中西:いいえ。大学在学中はさまざまな伝統工芸品に触れておりました。その中で、伝統工芸品は鑑賞して楽しむ”美術品””が多いと感じました。それはそれで素敵な文化ですが私は「たくさんの人の身近に置いて使ってもらえる道具を作りたい」と考えていて、そんな時に「豊橋筆」と出会いました。

――「豊橋筆」はまさに実用的な伝統工芸品ですね。
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中西:実用性はもちろん見た目も美しく、子どもから書道家まで多くの人が使っています。豊橋が地元だったこともあり、豊橋筆にすっかり魅了されました。
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――「伊勢根付」と「豊橋筆」について、それぞれの魅力を教えていただけますか?

梶浦:「伊勢根付」は3~4センチ大の彫刻です。お伊勢参りの土産物として栄え、着物の帯に巾着などを提げるための道具として用いられています。精巧な彫刻の美しさが魅力で、見れば見るほど興味を掻き立てられる細かな彫りの“妙”は圧巻です。

――ご自身が職人の世界に入り、発信していくことに不安はなかったでしょうか?


――おっしゃる通り、どのように作られているのか不思議なくらい、細かく美しいですね。

梶浦:さらに根付には「とんち」や「祈り」、「洒落」などの“粋”な仕掛けが込められています。私は「作る人と使う人の知恵比べ」と表現しますが、使い手側にもその解釈が求められます。

――たとえばどのような「仕掛け」があるのでしょうか。

梶浦:「リス」という作品は、割った栗の中に小動物が収まっています。よく見てみると、リスではなく尻尾の長いネズミなのです。「栗」と「鼠」・・・・・・もうおわかりですよね。このような「誰かに話したくなる仕掛け」も魅力のひとつです。

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――まさに“粋”な仕掛けですね。中西さんの制作する「豊橋筆」の特徴や魅力はどんなところでしょうか。



中西:「豊橋筆」は熊野に続いて書筆の生産数2番目です。完成品までも作れますが部位ごとに分業で制作し、私は「穂(毛)」の部分を担当しています。水に浸して毛を混ぜる「練り混ぜ」という技法が特徴です。高級筆では日本で7割のシェアを誇っています。
乾いた状態で混ぜるより毛の混ざり具合などを判断しやすいため、墨になじみやすく滑るような書き味の筆に仕上がります。

――手間のかかる作業を経て、プロの書道家にも支持される筆を作られているのですね。

中西:おかげさまで、書道家の方々からも信頼をいただき、毛の種類や長さ、硬さなどについて細かくご指定いただくことが多くなりました。やりがいを感じるとともに身の引き締まる思いです。
―お師匠様と梶浦様

梶浦:中西さんの作る筆は筆先が驚くほど滑らかで、使った人にしかわからない絶妙な書き味があります。プロの書道家の多くが使う高級筆というのも納得ですよ。

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――ひとつひとつの工芸だけでも十分魅力的ですが、さまざまな職人が集まって「凛九」を結成した背景にはどのような想いがあったのでしょうか?

――ひとつひとつの工芸だけでも十分魅力的ですが、さまざまな職人が集まって「凛九」を結成した背景にはどのような想いがあったのでしょうか?
東海の女性伝統工芸職人グループ「凛九」のメンバーたち

梶浦:伝統工芸を継承していくためには時代に適応していく必要がありますが、この世界は「従来のやり方を変えないことがよい」とされています。職場は「師匠と自分だけ」という環境で、同世代の職人や同志とコミュニケーションを取ることが難しいです。新しいことに挑戦しづらく、その不安や「どうにかしたい」という想いを誰かと共有したいと思っていました。

中西:私も「凛九」に加入するまでは「同世代の仲間がいないこと」や「新しいアイディアを発信しづらいこと」などの悩みを抱えていました。「自分ひとりでは何もできない」というジレンマもありましたね。

――作っているものは違っても、抱えている想いは同じだったのですね。

梶浦:そんな時、とある雑誌の取材で中西さん、松尾友紀さん(紙すき職人/凛九メンバー)と3人で対談をしたのです。それぞれが伝統工芸の世界や「女性職人」という立場について、複雑な想いを抱え悩んでいることを知りました。

中西:対談を通し、共感し合えたり、夢やビジョンなど前向きな話をすることができました。「この人達とだったら、これから一緒に色々なことに挑戦できるかもしれない」と思い、純粋にワクワクしました。

――そうして梶浦さんが「凛九」を立ち上げたのですね。

梶浦:新たな価値観を発信しながら私たち自身がステップアップしていくことで、伝統工芸を未来へ継承していくべきという考えに至ったのです。「若手女性職人」が集まって新しい観点から挑戦をすると、よくも悪くも目立って話題になりますよね。不安もありましたが、3人とも「伝統工芸を未来に残すためには必要」と思ったのです。そして、繋がりのあった女性職人に声をかけ、同世代の9人が集まりました。

――伝統工芸を持続させるために結成された「凛九」のメンバーとして、伝統工芸を「サステナブル」という観点から見るといかがでしょうか?


梶浦:伝統工芸自体、化石燃料などのエネルギーをほとんど使いません。
手作りのため無駄に作りすぎないという点でも「サステナブル」に通ずると感じています。

伊勢根付は、大切に使い続けると摩耗してアメ色に変わっていきます。その状態を「なれ」と呼び、価値が増すといわれています。ひとつのものを大切に使い続ける精神が根付いている点は、まさにサステナブルではないでしょうか。

―梶浦様作業中


――中西さんはいかがでしょうか。

中西:2017年頃から筆制作の過程で出される、毛の切れ端の端材を使ったワークショップやコンテンストを開催しています。趣旨の根底にあるのは「端材を再利用できないか」という「もったいない精神」です。

――手仕事で工程が目に見える伝統工芸だからこそ、身近に感じられる精神ですね。

中西:その精神、ものづくりの過程や楽しさ、材料の扱いの難しさなどを今の子どもたちに伝えたいですね。同時に伝統工芸や書道の魅力を知ってもらえたらうれしいです。こういった活動が、「サステナブルな社会」を支える取り組みになれば光栄に思います。

――伝統工芸を持続させるために結成された「凛九」のメンバーとして、伝統工芸を「サステナブル」という観点から見るといかがでしょうか?

――マルシェルに参加して何か変化はありましたか?



梶浦:これまでもネット販売は行っていましたが、「自分の想いを発信しながら販売できる場が欲しい」と感じていました。というのも、手作業で制作する伝統工芸品は、どうしても販売価格が高くなってしまいます。ネット販売はその理由を伝える場がなく、歯痒い思いを抱えていたからです。制作の過程やコンセプトを伝えながら販売できるマルシェルは本当にありがたい存在ですね。

――そういった背景がわかると、購入者も安心しますね。

中西:マルシェルのような場所は「ありそうでなかった」と、私も日々実感しています。販売ページでは取り繕うことなく作品への想いを語れます。文字にすることで、私自身も改めてコンセプトなどを整理して考え直すことができています。ブログを読んでくださった方からコメントを頂けることもあり、“双方向な関係性”が実現でき励みになっています。他の職人のページから刺激を受けることも多いです。

――今後やりたいことや目標について教えてください。



梶浦:まず、職人として成長することが大前提です。その上で「凛九」のメンバーと伝統工芸の美しさ、面白さ、魅力を伝え続けていきたいです。私たちの活動を若い人たちにも知ってもらい、受け継いでほしいという思いもありますね。そのためにも多くの方々に発信できるよう、販売や展示、イベントなどを実施し続けていきたいです。

――伝統工芸を持続させるために結成された「凛九」のメンバーとして、伝統工芸を「サステナブル」という観点から見るといかがでしょうか?


中西:私も「凛九」としては、梶浦さんと同じ気持ちです。あわせて、伝統工芸と工作を掛け合わせたワークショップを継続して実施していきたいです。より多くの子どもたちに、伝統工芸を通してものづくりを知り「身近なものから未来を考える機会」を提供できたらうれしいです。

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