【お悩み1】発注先との交渉術が知りたい(30代・フリーライター)
▲『デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイスーWork for Money, Design for Love』David Airey著(ビー・エヌ・エヌ新社)
(お悩み)フリーランスで3年ライターをやっていますが、記事を発注してくれる会社が出してくる条件(期限、価格など)を一方的に飲んでいる状態が続いています。こちらの有利な条件を引き出す交渉術が知りたいです。
花田さん:そのようなお悩みにズバリお答えしている本でオススメしたいのが、David Aireyさんの書いた『デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイスーWork for Money, Design for Love』。出版されたときにもとても話題になった本です。
学校では教えてくれないような、クライアントとのギャラ交渉や権利問題などについて辞典のように記載されていて、デザイナーだけではなく、ライターを含めたクリエイティブ職全般に役に立つ本だと思います。
独立すると自然と「もっと稼がなきゃ」「もっと有名な媒体で書かなきゃ」と上昇志向にとらわれてしまうかもしれませんが、そうではなく、何を軸として考えたら良いか、ということも書かれています。
入門書としても、実際の業務に悩んだ時にも「自分は何を大切にしたいか」に立ち返らせてくれて、自分を形作るのに必要な一冊だと思います。
タイトルの”(い)”もいいですよね。「デザイナーとして起業した君へ」だと普通ですが、「デザイナーとして起業した(い)君へ」となっていることで、効いているなって。
【お悩み2】〆切ギリギリにならないと手が動かない(30代・デザイナー)
▲『イラスト図解 先送りせず「すぐやる人」になる100の方法』佐々木正悟著(KADOKAWA)
(お悩み)やらなきゃいけないと分かっているのに、〆切ギリギリにならないと手が動かず、やる気になるまですごく時間がかかります。時間に余裕をもって、取りかかれるようになりたいです。
花田さん:このお悩みは「ザ・私」です。「やらなきゃ、やらなきゃ」って思っているのに、6時間もTwitterを見てしまったり……。
そういう方におすすめしたいのが、『イラスト図解 先送りせず「すぐやる人」になる100の方法』。
たとえば、原稿を書かなければいけないのにテレビを見るのをやめられないという場合、「テレビを見ているという快適な状況を手放したくない」という気持ちが先にあるそうなんです。なので、「仕事を始めよう」と思うのではなく、「仕事をするかしないかは置いておき、まずはテレビを消す」ことをやってみる。そういったノウハウがたくさん紹介されています。
正直この本を読んだからといって、やれるようになるかは分からないんですが、少なくとも「分かる〜!」っていうあるあるが詰まっています。
読んでいるうちに「これだったら試せるかも」という方法が見つかるかも知れません。
できるようになればベストですが、「なぜ自分はできないのか」という自分の心理を観察するだけでも面白いのでは、と思います。
【お悩み3】自分の作品をうまく世に発信していきたい(30代・アーティスト)
▲『「ない仕事」の作り方』みうらじゅん著(文春文庫)
(お悩み)他人から批判されるのが怖くて、作品の主張が弱くなってしまったり、強く断定ができず、あいまいな表現にしてしまい個性が出せません。
またやったほうがいいと思いつつも、セルフ・ブランディングするのを恥ずかしい行為と思い込んでしまい、自分の作品に自信はあるものの、SNSなどで強く宣伝ができません。自分の活動や作品について、効果的に世に発信していく方法が知りたいです。
花田さん:おすすめしたいのが、みうらじゅんさんの『「ない仕事」の作り方』。今年の「本屋大賞発掘本」で、あらためて多くの書店員からも注目されている本です。
みうらじゅんさんは、「マイブーム」や「ゆるキャラ」の生みの親で、ふざけたり、好きなようにマイナーなことをやっているように見える方なんですが、本を読んでいくと、考えて、仕掛けて、ブームを打ち出したりと、すごく広告代理店的な考え方をしているのがわかります。依頼の少ない無名時代には自分で売り込んでいくことが必要ですが、どうやったら自分のやりたいことをやるかについて、みうらじゅんさん的に書かれた本です。
この本でみうらさんが提唱しているのが「自分なくし」。個性を出すのではなく、自分が消えるくらい好きなものに集中したらうまくいくんじゃないか、と書かれています。「自分が自分が」ではなく、「ゆるキャラ」など好きなものが主語になっているというか。その結果、みうらじゅんさんが作ったものは、みうらじゅんさんという人を超えて勝手に解釈が広がって、みうらさん自身もそれを楽しんでいるんですね。
自分を売り出したい、ということではなく、好きなものを伝えたい、というのが伝わってくるから、たとえ「いやげもの」に興味がなくても笑っちゃう。
「有名になりたい」「人から尊敬されたい」といった欲が入ってくると濁ってくると思うんですが、うまくいっている人やみんなから愛されている人って、冷静に計算して仕事としてとらえている部分と、制御できず狂っている部分とが半分ずつ混ざり合っている人のように思いますね。
自分全開に見えるみうらじゅんさんが、実は抑制しているのが分かるだけでも、面白い一冊。みうらじゅんさんのファンはもちろん、みうらさんを知らない方でも「こんなふうにゼロから仕事を作れるんだ」と発見できるはずです。
【お悩み4】食べるための仕事と心が喜ぶ仕事、どうバランスを取ればいい?(30代・デザイナー)
▲『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』pha著(幻冬舎)
(お悩み)自分が本当に作りたいと思っているものだけでは、暮らしていくことができません。かといって生活していくために様々な仕事を引き受けていると、そっちで精神や時間が削られ、本来作りたいものに注力できないことがあります。また、自分が作りたいものだけに注力すると、それはそれで精神的に辛くなりそうだとも思います。食べるための仕事と心が喜ぶ仕事、どのようにバランスを取っていけばいいでしょうか?(30代・デザイナー)
花田さん:お金の悩みを解決するには、稼げるようになるまで頑張るという解決策がある一方で、「○○しなければ」を捨てていく、という解決策もあります。たとえば「月20万円は稼ぎたい」というルールは、もしかしたら「月15万」に下げられるのではないか?
phaさんの『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』には、そんなヒントがたくさん載っています。
「部屋はこのくらいの広さがないと」「友だちはたくさんいたほうがいい」「家族がいたほうがいい」「結婚していたほうがいい」。誰から言われたわけではないのに、自分の中で知らず識らず世間に合わせていること。そこに一度疑いをかけて、何が必要で何がいらないかをスッキリさせていくきっかけになる本だと思います。
人生を豊かにするには、稼いだ金額ではなく、夕日を見て「きれいだな」と思う時間ではないか。そんなふうに、大切なものを見極めて心を落ち着かせるためにおすすめの本です。
【お悩み5】一流のクリエイターは日々何を見ている?(40代・作家)①
▲『観察の練習』菅 俊一著(NUMABOOKS)
(お悩み)世の中で一流と呼ばれるクリエイターは、日々どのようなものを見て、何を考えて暮らしているのでしょうか?
花田さん:一流のクリエイターの数だけ本は出ていますが、その中でも個人的に、菅 俊一さんの『観察の練習』はすごく好きな本です。
街中の何気ない写真が載っていて、「なんだろう?」とページをめくると著者が思ったことや気づいたことが書いてある。タイトル通り「観察の練習」ができる本。たとえば赤と黄色の配管が2本並んでいる様子を「マスタードとケチャップ」に見立てたりと、切り取ってもらわなければ気づけなかった普通の風景も「ああこういうふうに見られるのか」という発見があって。街を見るだけでこれだけいろんなことを感じたり考えたりできるんだ、と楽しくなります。
著者はデザイナーなのでデザイナー目線でありながら、直接デザインと関係なくとも、クリエイティブの筋肉を鍛えるために良さそうな一冊です。
【お悩み5】一流のクリエイターは日々何を見ている?(40代・作家)②
▲『ベンチの足 考えの整頓』佐藤 雅彦著(暮しの手帖社)
(お悩み)世の中で一流と呼ばれるクリエイターは、日々どのようなものを見て、何を考えて暮らしているのでしょうか?
花田さん:もう一冊は、だんご3兄弟やピタゴラスイッチなどを作られた佐藤雅彦さんの『ベンチの足 考えの整頓』。CMクリエイターの巨匠ですが、文章一つ一つにユーモアや新しい発見があって素敵なんです。
たとえばこの本の中に、気持ちよく晴れた日曜日の朝に洗濯をしたらジャージにティッシュが入っていて洗濯物に紙のカスがたくさんついてしまった、というエッセイがあります。ここまではよくある話なんですが、いっぱいくっついたティッシュをバサバサと落としてみたら、表面積が大きいジャージにはたくさん付いている。一方、ハンカチにはあまり付いていない、いや、それとも素材の問題?……と考察しているうちに楽しくなってきて、最終的に洗濯物ごとにくっついたティッシュの量を比較した結果の写真まで撮って遊んでしまう。
最初はティッシュのせいで素敵な日曜日が台無しになったと感じていたのに、時間をかけてティッシュを採集して、やっと一息ついて朝の紅茶を飲んだときに、とてもいい一日だったと振り返る。
「仕事になるから」ではなく、根っからクリエイティブで、日々をこんなふうに生きているのがすごい。
一つのものをどうやって見て、どんなふうに考えて導き出すのかがよくわかります。
文章自体はまったく難しくなく、ユーモアもあって、読み物として面白いと思わせてくれるのも、佐藤雅彦さんならでは。『暮しの手帖』で連載されていたものなので、生活に足を付けながら発想や視点を見つけさせてくれるような本です。
■Profile:
花田菜々子
1979年、東京都生まれ。「ヴィレッジヴァンガード」、「二子玉川蔦屋家電」ブックコンシェルジュ、「パン屋の本屋」店長を経て、現在は「HMV & BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長に。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』がある。
Twitter:@hanadananako